『 いんた〜なしょなる 』
なにせ 人種の坩堝 なのだ。
ユーロ だけじゃない、 そこに TPP が一緒くたになり アフリカも加わり
そんな連中がこともあろうに このニッポンに滞在している のだ。
そりゃ いろいろ ・・・ あって当たり前 であろう。
***************
ぴゅう〜〜〜〜〜 ・・・・
冷たく乾いた風が 海へと拭き抜けてゆく。
「 う〜〜〜〜〜 さむ 〜〜〜〜 」
マフラーでぐるぐる巻きになって グレートがリビングに飛び込んできた。
「 お帰りなさい。 ご苦労様です。 」
フランソワーズが 手をだしてレジ袋を受け取ろうとした。
「 マドモアゼル。 忝い。 しかし これはみかんだのジャガイモだの
重い袋ゆえ 拙者が運ぼう。 」
「 まあ ありがとう。 じゃ 熱いティを淹れますね 」
「 メルシ マドモアゼル では熱いビスケットなどをご用意いたそう 」
スキン・ヘッドは慇懃に会釈をすると
へ〜〜〜〜 っくしょい! 派手なくしゃみを残しキッチンに消えた。
「 ・・・ 日本の、この地域の冬は こんなに寒いのか 」
「 え? さ さあ 雪は降ってないよね? 」
アフリカ出身者は かなり熱心に窓の外をみている。
「 かんらからからの ぴ〜かんさあ〜 おい 地元民?
オマエのトコの冬は 例年こんな寒いのかよ〜〜 」
「 ・・・ へ? 」
テラスから如雨露を運んで来た茶髪が やっと振り返った。
「 だ〜から。 ニッポンの冬 は こんなに寒いのかって 」
「 ・・・ あ? う〜〜ん ここいらは毎年 こんなモンだよ
乾燥するんだ この時期はね〜 ぼくもちょっとお茶 飲んでくる〜 」
ジョーは キッチンへ ばたばたとリビングを横切っていった。
「 ふうん 雪は降らないし 太陽光も燦々なのに 冷えるよね。
・・・ 風かあ。 この風のせいで寒いのかもなあ 」
カラリ。 ピュンマは テラスへのサッシを開け空を仰いでいる。
「 しぇ〜〜〜 おい ピュンマ 開けるな〜 」
「 空気の入れ替えは必要だよ。 君は もっと冷える上空でも
平気なんだろ? 」
「 ソレとコレは別〜〜〜 う〜〜〜 冷えるぅ〜〜
なあ もっとヒーターの温度 上げようぜぇ〜 」
「 適温だ。 寒ければもっと着こめばいい。 」
「 だっせ〜〜じゃんか〜〜 オッサン 」
「 これ以上の温度は不経済だ。 この寒空にTシャツでいる方が
そもそも間違っている。 」
「 けどよ〜〜〜 オッサンの国 寒いだろ? 」
「 寒い。 もっと着こんでいたぞ。 この国はドイツに比べれば
ずっと温かい。 」
「 NYだってもっと寒かったぜぇ〜 だからよ〜〜部屋はがんがん〜
ヒーター入れてたぜ。 」
「 よく金があったな 」
「 ・・・ 凍死したくね〜からよ〜 ピュンマ〜〜 窓 閉めてくれぇ 」
「 わかったよ。 」
「 おめ〜 寒くね〜のかよ 南の国だろ、出身は 」
「 あは 僕の国は夜はぐっと冷え込むんだ。 寒暖の差が激しくてね。
だからジャケットはいつも必須さ。 」
彼は羽織っている厚めのジャケットを指した。
「 ほう アフリカは広いからな 」
「 その通りさ。 ・・・ でもここの風は本当に冷たいね〜〜
こんなに晴れてるのに 冷えた風が吹き荒ぶ。 」
「 う〜〜〜 オレ 死んじまう〜〜 」
バサ。 赤毛にむかって毛布が飛んできた。
「 ! おわ〜〜〜 な なんだってんだ?? 」
「 寒いなら 被ってろ 」
「 ・・・ ちぇ 」
「 熱い飲み物、 飲もうよ。 フランソワーズが紅茶を淹れてるはず
だからさ。 ちょっと見てくるね 」
ピュンマは 気軽にキッチンに向かった。
「 ・・・ フランソワーズ? あの え? 」
キッチンでは ―
ジョーとフランソワーズが テーブルに差し向かいで座っていた。
お〜〜っとぉ〜〜
こりゃ お邪魔虫かね、 僕は
ピュンマは即行反転〜〜 と思った が。
どうも 甘ぁ〜〜い雰囲気 とは違うのだ、いや話題は < 甘い >
だったけれど。
彼は キッチンの入口で立ち尽くしていた。
「 え。 そ れ ・・・ 浸すの? 」
「 そうよ〜〜 これって朝食の定番なの 」
「 ・・・ あ 朝ご飯 に?? 」
「 ええ もちろん。 しっかり甘いモノ、食べて
エネルギー 充填〜〜〜 よぉ〜 」
「 ・・・ す げ ・・・ 」
「 あら美味しいのよぉ ジョーも食べてみて? 」
「 ・・・ え 」
「 美味しいから。 ジョー 紅茶にお砂糖 三個いれるでしょ 」
「 ! 知ってた? 」
「 知ってたわよ〜〜 うふふ〜〜 甘いもの 好きでしょ? 」
「 う ん そりゃ好きだけど
でも ・・・・ こ〜ゆ〜のは食べた、いや 飲んだことなくて 」
「 あ〜ら わたしだって日本茶を飲んだのは 初めてだったのよ? 」
「 苦かっただろ? 」
「 え〜〜〜 香ばしくてさっぱりしてて 美味しい〜〜って思ったわ。 」
「 そ そうなんだ ・・・ 」
「 あら ジョーは日本茶 きらい? 」
「 ・・・ ぼくは麦茶がいい 」
「 え〜〜〜 麦茶ぁ? そりゃ美味しいけど ・・・ マイルドすぎて
子供向きだわねえ 」
「 ・・・ どうせ ぼくはコドモだよ 」
「 そんなコト 言ってないわ?
あのね ココアはオトナの飲み物よ。 本当のココアはね
お砂糖を自分の好きな分量、淹れてお湯で練るの。 」
「 へえ ・・・ ぼくが飲むのは お湯に入れるだけってのだけど? 」
「 それは子供向けのミルク・ココアよ 」
「 う〜〜〜 やっぱりぼくはコドモなんだ〜〜〜 」
「 だから はい。 この大人の味を試してみて? 」
「 う〜〜〜・・・ 」
ウワサのカップル? が ココアを前にごたごたやっている。
「 あ あのう〜〜〜 」
ピュンマは おずおず・・・声をかけた。
「 あら ピュンマ。 なあに 」
「 ごめ ・・・ 邪魔して 」
「 ?? なんの邪魔? 」
「 いやあ 〜〜 楽しそうなのに・・・ その 二人で さ 」
「 ?? ジョーがね ちょっとお腹減った〜〜っていうから
トースト、作ってたのよ 」
「 うん。 美味しいよ〜〜 」
ジョーは 白い歯をみせてぱりぱり・・・ジャム・トーストを齧っている。
「 わお〜〜 いいなあ 」
「 あのね これを ココアに浸すと超〜〜〜 美味しいのよ 」
「 ・・・え?? じゃ じゃむ・とーすと を?? 」
「 そう。 これ わたしの、ってか パリでは朝食の定番なの 」
「 ふぇ〜〜〜〜〜〜 」
「 だから やってみて? って進めているんだけど ・・・
やったことないから・・・って尻ごみするの。 」
「 ・・・ 僕もココアにジャム・トースト 浸したこと ない 」
「 あら それじゃ ピュンマもどうぞ。
すっご〜〜〜くオイシイの、それで元気ももりもり湧いてくるのよ。
うわ〜〜〜〜ってお腹の底から力が湧きあがってくる カンジ 」
「 ・・・ エナジードリンク かな 」
「 ねえ ねえ ほら 一口どうぞ。 熱いココア 淹れたわ 」
「 ようし、では ご馳走になるよ 」
ごくん。 ピュンマは唾を呑みこみ、意を決してジャム・トーストを
手にとった。
「 こ れを 」
「 そう そのままココアの中にじゅわ〜〜 っとディップするの 」
「 ・・・ えい! 浸したよ 」
「 ココアが滲みたら 召しあがれ。 」
「 よ よし ・・・ っと 引き上げたよ?
それじゃ 〜〜 一口 ・・・ ( ぱくり ) 」
ピュンマの口元を ジョーが目を皿のようにして見つめている。
「 〜〜〜〜〜〜 」
「 ピ ピュンマ〜〜〜 ・・・ 生きてる ? 」
「 ・・・・ んん ・・・ 」
「 ねえ 生きてる・・・? 」
「 ・・・ う ぉ〜〜〜〜〜〜〜〜 ・・・
なんか腹の底から めらめら〜〜〜〜燃え上ってきた 気がするよ? 」
「 え? ・・・ エナジードリンクに化学変化した のかな? 」
「 ・・・ んぐんぐんぐ〜〜〜 」
ピュンマは懸命に咀嚼し 口の中のモノをなんとか飲みこんだ。
「 は あ ・・・・ 」
「 だ 大丈夫かい ピュンマ?? 博士 呼ぼうか・・・? 」
「 ジョー いや いい ・・・
あ ーーー 急性甘いモノ中毒 になるかと思ったぁ 」
「 そ んなに ? 」
「 ウン。 でもね 確かに こう〜〜 なんていうか・・・
ああ アドレナリン が うわ〜〜〜っと放出されたんだと思うな。
まあ 確かに元気もりもり〜〜 だよ 」
「 ・・・ だって甘いだろ めっちゃ 」
「 ああ 衝撃的に ね。 フラン これ ・・・ 朝食なのかな 」
「 そうね〜 よく食べてたわ。
このココアも飲めばね 寒い朝でも元気いっぱいよ 」
「 ・・・ 確かに ・・・ 」
「 だから ジョーも どうぞ 」
「 ・・・ ん 」
ジョーは ( なにせ想い人の 薦めである ) きゅっと
目をつぶると ジャム・トーストをココアに沈めた。
若者たちが 甘いモノ に集中している間に
グレートは 香たかい紅茶を淹れホットビスケットを チン し。
意気揚々と リビングに運んでいった。
「 さて と。 いただくかな 」
グレートは優雅にティーカップを 取り上げた。
「 お〜〜〜 うまそ〜〜〜 あ オレ コーク のも! 」
「 はん?? 寒さで震えているヤツが コーラを飲むのか? 」
「 コークに季節はね〜んだ フラン〜〜〜 コーク あるかぁ 」
毛布を被ったまま ジェットはキッチンに駆けこんだ。
「 ? うわお〜〜 毛布オバケ ・・・ 」
「 きゃ ・・・ やだ なあに ジェット 」
「 あ ああ 002か。 なんだい そんなに寒いのかい
君はNY出身だろ こんな寒さには慣れてるだろ 」
「 ぶるるる〜〜〜〜〜 慣れてなんかね〜よ〜〜
ぴ〜かん に 吹きっ晒しの風ってのはも〜〜〜
なあ コーク あるか 」
「 ああ コカ? ええ 冷蔵庫に入ってるわよ 」
「 お〜〜〜 サンキュ。 」
赤毛は ペット・ボトルを取りだすと そのまま持っていった。
「 ・・・ あれってさ。 2リットルだよね? 」
「 え? ああ そうね。 皆で飲むんじゃない? 」
「 コップ 持っていってないよ。 それに ・・・ アルベルトや
グレートがコーラ 飲むとは思えないよ 」
「 そうねえ やだ 2リットル 全部飲むつもりかしらね〜〜 」
「 らしい ね。 ま この家でコーラ飲むの、彼だけだもんな 」
「 あら そう? ジョー、 ジョーは飲まないの 」
「 ・・・ ふうん コーク に コカ かあ 」
茶髪ボーイは なぜか一人で ふうん〜〜 と感心している。
「 ? なあに ねえ ジョー、 コカ飲むの? 」
「 え? あ ・・・ うん 今はいいや。
スカッと爽やか〜〜 しなくていいもん 」
「「 ??? 」」
「 あ うん なんでも ・・・ 」
海外組 に 往年のCMは通じないようだった。
「 ピュンマは? あれ ・・・ 水 飲んでる?
」
「 あ ・・・ ごめ ・・・ そのう〜〜 衝撃的な甘さが その・・
まだ口の中に残ってて 」
「 あらあ〜〜 それがいいんじゃないのぉ〜〜 」
「 いや 僕は甘いモノとはあまり縁のない生活してきたから ・・・
なんか あまりの甘さに味覚がびっくりしてるんだ。
「 ふうん ・・・ そのなの〜〜 アフリカって甘いモノとは
あまり縁がないのねえ 」
「 こういう甘さとは ね。 あれ ジョー 全部飲めたんだ? 」
「 え うん。 ぼく ・・・ これ好きかも 」
「 わあ〜〜 ホント? きゃあ〜〜 日本人でもわかるヒトがいるのねえ 」
「 え へへ ・・・ 」
「 ふ〜〜ん ??
ジョー、 君が < 好き > なのは激甘ココアじゃないんじゃないかあ〜 」
「 え ・・・ そのう ・・・ 」
「 あら なんのこと? ピュンマの言い回し わたし理解できないわ〜
ジョー 明日の朝から ココア淹れるわね 」
「 ・・・ あ う うん ・・・ 」
ジョー ・・・ サイボーグでよかったなあ〜
メタボにもならないし 糖尿にもならないから・・・
ま せいぜい激甘ココア でカノジョのハートをつかめよ〜
ピュンマは 009おんり〜でこっそり脳波通信MSGを飛ばした。
「 なあ 冬場はいつもこんな風な風が吹くのかい? 」
若者たちがキッチンから出てくると グレートが煙草を擦り消した。
「 こんなに晴れてるのになあ。 窓ガラスが鳴っている 」
アルベルトもつらつら・・・ 青空を見上げている。
カタカタ カタ ・・・・
火炎をも通さない完全密封のはずのサッシが 微かに揺れている。
冬場の関東地方特有の風なのだ。
「 風? あ〜 この季節はね〜〜〜
ははは 嬶天下とからっ風 って。 関東では名物さ
・・・ ウチと同じかも〜〜〜 」
「「 ??? 」」
― 目の前に この邸の紅一点がいたのだが
嬶天下とからっ風 は 幸いにも誰にも通じなかった・・・ らしい。
それぞれ 気に入った飲み物と軽食で メンバーズはティータイムを楽しんだ。
クリスマスから年を越し 正月も過ごした。
そろそろ ・・・ それぞれの故郷に戻る時期がきている。
「 この晴れが続くなら 吾輩は少々買い物に出るかな。
ヨコハマはなかなか興味深い街であるな。
ああ 歌舞伎も観賞したい。 チケットはどうやって手に入れるのかね? 」
「 ワテは 厨房器具の仕入れやで。 浅草橋 やろ? 有名なんは
地下鉄 でっか? 」
「 それなら ― 」
唯一の地元民は あれこれ・・・案内に忙しい。
「 銀座の三越で 絵画展があるの。 わたし このヒトの絵 好きなのね〜
ジョー 一緒に行かない? 」
「 え え? ・・・ ごめん パス。 」
「 あらァ ・・・ 興味ない? 」
「 ごめん ・・・そのう〜〜 映画とかならいいんだけど ・・・ 」
「 ・・・そうなの ・・ じゃあ ひとりで 」
「 付き合うぞ。 丁度銀座に出る用事がある。 俺も見たいしな。
そうだ、ライオン像の前で 待ち合わせよう 」
「 あら ありがとう アルベルト。
え ・・・ ライオンのとこにカフェ あった? 」
「 は? 」
「 あそこに カフェあったかしら 」
「 俺は ライオン像の前 と言ったんだぞ。
遅れるなよ? 二時 といったら 二時にはちゃんといろ! 」
「 あ〜らあ だってカフェないのに? 」
「 俺は! カフェに行くのじゃない。 絵画展だ。
だから ライオン像の前に二時だ。 」
「 ・・・ なにもないところに立ってろっていうの? 」
「 待ち合わせとはそういうものだろが 」
「 だいたい二時ごろに 近くのカフェで会えればいいじゃない
ね〜〜 ジョー? ジョーと待ち合わせする時って
まっく や すたば で 待っててくれるわよねえ 」
「 あ ・・・ う うん ・・・・
だって フラン ・・・ 時間通りにこない から
ぁ 三越の中にカフェ あるよ ・・・ 多分 ・・・」
「 だろ?? おい。 五分前精神 って知っているか フランス娘 」
「 なにそれ。 わたし 軍隊にいるんじゃないわよ。
とにかく 二時くらいに三越の中のカフェにいますから 」
「 ・・・ ったく。 」
ドイツ人は肩を竦め この最強娘に白旗を掲げた。
「 やはり組むなら 日本人 だな。
二分間隔でぴったり鉄道を運行する民族がいい。 」
「 あ 〜 ぼく ・・・ 寝坊魔だけど 」
「 そうなのよ もう〜〜 毎朝起こすの大変なの! 」
「 スイマセン ・・・ 」
「 あ ジョー 今日はバイト? 」
「 あ〜 今日はね 休みなんだ 」
「 うふ よかった〜 ずっとウチにいられるのね 」
「 ウン♪ あ あのさ 明日も弁当、たのめる? 」
「 勿論よ〜 うふふ オヤツもいれておくわ。 」
「 わお?? オヤツ? 」
「 だってお腹ぺこぺこ〜〜って言うから 」
「 あは ・・・ 」
「 蒸しパンとバナナ、入れておくわね。 」
「 わ♪ サンキュ。 きゃほ〜〜 楽しみ〜〜〜 」
「 うふ がんばってね、お仕事。 」
「 ウン ありがと フラン〜 」
碧と茶の瞳が にっこり〜〜 見つめあっている。
「 は ・・・ お熱いこって 」
「 だ な 」
「 ふん。 な〜にが ぼくたちはべつにそんな だ 」
「 ふふ いいことだ 」
寡黙な巨人も頬を緩めている。
「 へ〜〜ん ・・・ オレ ちょっと飛んで 」
「 馬鹿 やめろ。 レーダー網にひっかかる 」
「 ステルス仕様だぜ オレ。 じゃ な 」
赤毛のアメリカンは どかどか 足音も高く出ていった。
あ 飛んでる ・・・・
何気に 誰もが窓からその姿を眺めていた。
〜〜〜〜♪♪ 〜〜〜〜♪
少々哀愁を込めた音が聞こえた。
「 ? なんの音? 」
「 ・・・ チャルメラ〜〜 ってこの辺に来るのかなあ 」
「 ?? ちゃるめらって なに? 」
不可思議な表情を浮かべ 顔を見合わせていると ―
「 ああ ワテの携帯やわ 失礼しまっさ 」
張大人が リビングの片隅でスマホを取りだした。
「 なあんだ 大人の音かあ それであの音なんだ 」
「 ?? ちゃるめら ってあの音の名前なの? ジョー 」
「 ううん あの〜 なんつ〜か ・・・ 夜にね 屋台のラーメン屋さんとかが
鳴らす音らしいよ 」
「 屋台のラーメン屋さん?? そういうのがあるの? 」
「 いや ・・・ ぼくも見たことない けど。
あの音が 〜〜〜♪ なると 皆 そんな風に言ってたんだ。 」
「 へえ・・・ なんかよくわかんないけど・・・ 」
若者たちの会話を他所に 大人の表情は険しくなってきている。
「 どうしたんだろ ? 」
「 心配なことかしら・・・ 」
003は 日常生活では < 耳 > は使わない。
「 ふん? ・・・ なんやて?? 予約もろてないで。
え 今? ・・・ う〜〜〜ん 」
大人が 携帯を抱えて唸っている。
「 ? どうしたんだい 大人 」
「 ・・・ なにか悪いお知らせ? 」
ふ〜〜〜〜〜
彼らの料理人は通話を切ると アタマを抱え込んでいる。
「 ・・・ 参ったデ ・・・ 」
「 どうしたの ねえ? ぼく達でよかったらなにか手伝えるかな 」
「 そうよ、話して? 」
「 ・・・ ジョーはん フランソワーズはん ・・・ おおきに。
てつどうてくれはりまっか
」
「「 だから なにを? 」」
「 あのな 今 ・・・ 店、任してきた支配人がナ ・・・
急に宴会の予約、来はった〜 ていうてきてん。 」
「 宴会? 大人数なのかい 」
「 ・・・ 15人様やて 」
「 まあ すごい! 」
「 すごいやろ? けど・・・ 今日はうっとこ、バイトはんらあが
お休みの日なんや。 週の内でまあまあ暇な日ィなんでなあ 」
「 あら ・・・ 」
「 そりゃ 大変だねえ 」
「 料理はワテが大車輪でがんばりまっせ。 けど・・・
お給仕してくれはるヒトがおらなんだら ・・・ お客はんらに
失礼やろ? 」
「 それは そうだよね。 大人のお店はさ、味とサービスがウリだもんね 」
「 あ それで わたし達? 」
「 そや。 ジョーはん フランソワーズはん やったら
ウチとこの店、 わかってはるやろ? バイトしはってたこともあるし・・・ 」
「 ジョー。 行きましょ。 今 着替えてくるから 」
さっと立ち上がると フランソワーズはジョーの腕をつかんだ。
「 じゃ 10分後に玄関集合。 時間厳守よ ! 」
「 あ ・・・・ う うん 」
ぱたぱたぱた ・・・・ とったん とったん
フランス娘は軽快な足取りで二階の自室へと駆け上がり
じゃぱにーず・ぼ〜いは 慌てて彼女の後を追った。
「「 それじゃ イッテキマス。 」」
「 ほな 二人、拝借しまっせ〜 あ キッチンに焼売やら点心やら
置いてあるさかい・・・ チン! してなあ 」
「 ね〜〜 ヨコハマでお買い物 したいわあ〜 」
「 あ 福袋 買おうか 」
「 なあに それ 」
「 楽しいよぉ〜〜〜 いろいろ入ってて 」
「 ふうん 」
「 ほっほ〜〜 二人には うっとこの店の 福袋 さしあげまっさ 」
「「 わあ〜い 」」
「 ほな いこか 」
三人は ぱたぱたと出かけていった。
「 はあ 〜〜 なにやら急に静かになったなあ 」
「 ふふん オトナの時間だ 」
「 大人も二人も 頑張る。 ウマいモノ 作っておいてやろう 」
「「 へ?? 」」
仲間内で唯一? 寡黙な巨躯の持ち主がぼそり、と発言をした。
今までずっと暖炉の前で 薪を組んでいたのだ。
思わず 居合わせた者、全員が彼を注目してしまった。
「 あ〜 キッチンの大人の料理があるって言ってたけど 」
「 聞いた。 三人、一生懸命仕事してくる。
オレたち 彼らに報いてやらねば ― もち 作れるか? 」
「「 もち だって?? 」」
またまた全員が 声を揃えてしまった。
「 もち だ。 正月に食べた この国の伝統食だと ジョー 言ってた。
作ってみよう 」
「「 ふ〜〜〜む〜〜〜〜 」」
この時点で < 餅 > について詳しいニンゲンは いない。
唯一の地元民 と 一応 東アジア地区民 はいないのだ。
「 しかし だな。 アレは ・・・ どうやって作るのかね。 」
「 う〜〜ん?? あ そうだ! この前やったゲームの札に
< もちつき > っていう絵があったよ! 」
「 ゲームの ふだ ?? 」
「 そう。 ジョーに教わったんだ。 えっと・・・ そうだ
かるた・ゲーム ! サイド・ボードの引き出しに入れたはず〜 」
ピュンマは ごそごそ・・・ 引き出しの中身をひっぱりだす。
「 あ〜 あった あった ・・・ < たのしい・かるた > これだよ!
え〜〜と ・・・ あ これ! 」
「「 これ ??? 」」
皆が 彼が差し出したカードに首を伸ばした。
も と大きく一文字が書かれていて・・・ 絵が描いてあるのだが。
男性が大きなハンマーに似たモノを振り上げ その先にはびろ〜〜ん・・・と
白いモノがくっついている。
前には ドラム缶よりどっしりした器があり 白いモノ はそこから
伸びてきているのだ。
「 これが もち か? このびろ〜〜〜ん が・・・ 」
「 らしいな。 この大きな筒状のモノに入っているんだ 」
「 大きなハンマーで もちあげる のか 」
「 らしいな。 たいそうよく伸びる ときいた 」
「 ほう。 」
「 もち なら まだキッチンにあるはずだよ?
全部 食べきってないってジョーが言ってたもの。
なんかね〜〜 11日に ほら・・・ あのデカイの、食べるんだって 」
ピュンマが 暖炉横を指す。
「 おそなえ っていうんだってさ。 アレを食べるんだって 」
「 ・・・ あれはカチンカチンだぞ? 」
「 ! わかった! あれを < もちつき > すると
こう〜〜 びろ〜〜〜ん ・・・ってなるんじゃないかな? 」
「「「 あ な〜〜るほど 」」」
なにせ雑学にも詳しいピュンマの意見である。
全員が 感心し納得してしまった。
「 それなら これを使おう。 大きいしかちんかちんだ 」
ジェロニモは 暖炉の横のでかいヤツを指した。
お供え ココに置くね〜 と 暮れにジョーが飾っていたものだ。
二段に重ねその上にはちょこん、と庭の柚子が乗り変わったカタチの木の台に
でで〜〜んと座っている。
そしてやはり庭から毟ってきたシダのはっぱがもしゃもしゃ敷いてある。
「 なるほど な。 これは正月後に使うためのものなのか 」
「 ふ〜む この乾燥だ、腐る心配もないな 」
「 へえ〜〜〜 そっか。 これは保存食糧だったんだ?
ふうん ・・・ 僕の国でも使えそうだなあ
」
皆 それぞれ心中深くうなずき? この国の伝統食に理解を示した。
「 そうか。 それじゃ もちつき をして美味い < もち > を
作っておこう ! 」
「 それじゃ ・・・ このハンマーがいるよね?
これは ・・・ 木製みたいだねえ。 鋼ではないよだよ 」
ピュンマは かるた札 を矯めつ眇めつ観察する。
「 木製。 そうか。 任せろ。 裏山に倒木があった
オレ 採ってくる 」
ジェロニモは のそり、とテラスから出かけていった。
「 お〜〜 それでは ハンマーはジェロニモに任せようではないか。
で この・・・ でかいバケツのようなモノは どうする? 」
「 これ は ― これも金属ではないな。 石か? 」
「 石? う〜〜ん それは無理かも なあ 」
「 うむ。 堅い木材があればいいのだが 」
「 堅い木材 かあ ・・・ あ ドルフィン号の部品でさ
使わないもの、もらってこようか。 この際 仕方ないよ、金属で
代用しようよ。 」
「 そうだな。 」
「 じゃ この〜〜 でかいヤツを どうするんだろ? 粉々にするのかな 」
ツン! 彼は < オソナエ > を突いた。
「 ・・・ く〜〜〜〜〜 吾輩の腕力ではどうにもならん。
アルベルト その手で 」
「 ・・・ マシンガンの隙間に欠片が入ると 」
「 あ メンテ大変だよねえ うん ジェロニモが
裏山から帰ってきたら頼もうよ 」
「 そうだな。 モチをつくって ・・・ どうする? 」
「 雑煮は美味かったが 食い飽きた感があるなあ
おしるこ とか いそべやき とか ・・・ ジョーが言ってたぞ 」
「 おしるこ ? ・・・ 甘いって聞いたけど 」
「 甘い? ・・・まさかココアに浸すの か? 」
「 え〜〜 フランス人じゃないよ? たぶん・・・< あん > を
使うんだろね 」
「 あん ? 」
「 あ〜 あまい小豆のペーストだろ? あれはな〜〜 スコーンに
挟むとウマイぞ 」
「 グレート 食べたこと あるんだ?
それなら 作れるかなあ 」
「 ・・・ それはむりだな。 おお そうだ、中華饅 にも
あんまん というのある。 」
「 < あん > はポピュラーな具材らしいな。
よし 俺が商店街で買ってくる。 菓子店でいいんだろう? 」
「 ケーキショップ では 無理だと思うな〜〜
あ ほら。 真ん中あたりにさ 日本のお菓子の店 あるだろ?
あそこで売ってるかも だよ? 」
「 おう わかった。 では行ってくる。 」
アルベルトは ジャンパーを羽織ると出かけていった。
「 それじゃ 僕たちは < もちつき > の会場準備だね。
テラスでやろうか 」
「 おう いいな。 ボウルと皿を用意しよう 」
「 そうだね。 」
グレートとピュンマも 嬉々として動きはじめる。
― こうして ギルモア邸の表テラスに < もちつき > の
用意が着々と進んでいった。
「 ほっほ〜〜 急にお邪魔してよいかのう 」
「 もちろんじゃよ コズミ君。 皆 大歓迎じゃ。
アルベルトも一局 打ちたいじゃろうよ 」
「 ほ〜〜 今度は負けんからな 」
老博士二人 こぽこぽ・・・ 坂を上ってきた。
「 ? うん ・・・ テラスで なにやら 」
「 ほう〜〜 新年早々 お楽しみ会かのう 」
「 さあ ・・・・ なにも聞いておらんが。
どれ 庭先から入ってみるか 」
「 おう 」
カタン ― 見た目には簡単な低い門扉が開いた。
普段は 風が吹けば かたかた鳴っているこの門扉 ・・・ いざ! という
時には 外堀となってこの邸を護る。
実弾はもとより レーザーだって通さない < 鉄壁 > なのだが
日常は 少々建て付けのわるい普通の門 を演じている。
その門をあけて 博士たち二人は庭からテラスへと向かった。
― さて 少しだけ時間は遡る。
ギルモア邸に残っているサイボーグ戦士諸君は さすがのチームワークで
早々に < もちつき > の準備を整えた終わった。
テラスの真ん中には ドルフィン号のエンジン筒を加工した < ウス >
が鎮座し、 側にはジェロニモ Jr.お手製の 木のハンマー が置いてある。
「 ふん。 これでいいかな 」
「 そうだねえ あとは ・・・ あの < オソナエ > を
この中にいれて〜〜 この木のハンマーで ぺったん ぺったん って
やるんだよ 」
「 木のハンマーで あのカチコチを砕けるのかね? 」
「 あ〜〜 ・・・ これ ねえ〜〜 ホント 堅いなあ 」
ピュンマは < オソナエ > を抱えて呻っている。
「 どれ? おう ・・・ 乙女の操のごとく な堅さ〜〜〜 」
「 なんだい その比喩はあ? ま これを〜〜 」
ごとん、と < ウス > の中に入れようとしたが ―
「 待て。 俺が やろう 」
ジェロニモ Jr. が 手を伸ばした。
む ん ・・・ !!!
ビ っ! ジェロニモ の 大きな手の中でデカイ楕円形の < オソナエ >
は ぐずぐず ・・・・ 崩れた。
「 お〜〜〜 すばらしい〜〜〜〜 」
パチパチパチ〜〜 拍手が響く。
「 そっか〜〜 こうやったのを ぺったんぺったん やるんだ?
よおし。 じゃあ 僕が < こねるひと > をやるよ 」
「 なんだ その こねるひと ってのは? 」
「 あ〜 うん これは古い映像で見たんだけどさ
ぺったん ぺったん の合い間に こう〜〜 混ぜるヒトがいるんだ。
そのヒトのことを こねるひと っていうらしい。 」
「 ほう〜〜 混ぜる ということか 」
「 多分ね。 ちょっと水で手を湿らせてやっていたんだ。 」
ピュンマは 手元に水を張ったボウルを引き寄せた。
「 それじゃ〜〜〜 せ〜〜〜の っ 」
「 おう。 」
ジェロニモ Jr. が 木のハンマー を振り上げた ― その時。
「 やあ やあ 諸君。 なにをやっておるのかね〜〜 」
「 ただいま。 賑やかじゃな、楽しそうじゃが?? 」
老博士たちなにこやかに現れた。
「 あ コズミ先生 〜〜 いらっしゃい。
今から モチツキ をするところなんです。 」
ピュンマが にこやか〜〜〜に説明をし始めた ―
??? モチツキ 〜〜〜 ????
直後 コズミ博士による 『 餅の成り立ち 』 なる講義が
行われたのは 言うまでもない。
「 ほ〜〜〜 」 「 へえ〜〜〜 」 「 ふん ・・・? 」
「 ・・・・ 」
「 なるほど〜〜 これ どうする? 」
講義後 ピュンマが < オソナエ >だったモノ を指した。
「 勿論 利用しよう 」
「 左様 左様。 食べ物を無駄にしてはいけない。 」
「 熱 加えれば柔らかくなる、と今 学んだ 」
「 そうだね〜〜 それじゃ 」
砕いた餅 は お汁粉に お雑煮に そして ピザにも入れてみた。
夜には全員が揃った。 張々湖飯店の宴会は無時に行われた とのことだ。
いっただっきま〜〜〜す ♪
「 きゃ〜〜〜〜 おいし〜〜〜〜 」
「 わっほ〜〜〜 おい もち・ピザ さいこ〜〜〜 !! 」
「 ん〜〜〜 ま〜〜〜 このお雑煮、全部がお餅みたい〜〜 」
「 細かいのん、まだありまっか? 揚げモチ しまひょ。
胡麻でん 蜜でん 絡めれば最高でっせ〜〜 」
わあ〜〜〜〜〜〜 い 〜〜〜
・・・ やっだ〜〜〜 太っちゃう〜〜
いいんです、お正月だから。 ねえ 美味しく・楽しくすごせましたか
********************** Fin. *********************
Last updated : 01,08,2019.
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************* ひと言 ************
フランス娘とドイツ男のハナシ、 激甘朝食 は
ホントの話〜〜 共通語は日本語で
自国のお国事情を語る面白い番組で
仕入れました (^_-)-☆